~治療家として感じる、これからの“本物の価値”~
はじめに:AIとオンライン化の時代に生きる私たち
ここ数年、AI(人工知能)やデジタル技術の進化は目覚ましいものがあります。ChatGPTに代表される会話型AI、遠隔での医療相談や診断システム、ウェアラブルデバイスによる健康管理…。そしてコロナ禍をきっかけに急速に進んだ「オンライン化」の波。
私たちは今、まさに「テクノロジーによって社会の仕組みや働き方が根底から変わる時代」を生きています。
そんな中、治療家として必ず問われるのが、
→「AIやテクノロジーの発展によって、“手技”はどうなるのか?」
という問いです。
整体、マッサージ、カイロプラクティック、鍼灸、理学療法…。いずれも「人の手」を通じて体に働きかける職業。果たしてその価値は、テクノロジーが進めば進むほど、薄れてしまうのでしょうか?
結論からいえば、私はむしろ逆だと考えています。
テクノロジーが発展するほど、「人の手による技術」の価値は高まる。
その理由を、治療家としての実感と社会の流れを交えながら、ここでじっくりと掘り下げていきます。
第1章:AIとオンライン化がもたらす変化
まず、AIとオンライン化によって、どんな変化が起こっているのか整理してみましょう。
1-1. 情報提供と分析はAIが得意
症状や悩みを入力すれば、AIは膨大なデータをもとに適切なアドバイスやセルフケアの提案をしてくれます。すでに医療現場では、画像診断やカルテの解析にAIが導入され、精度は人間を凌駕するとも言われています。
また、オンライン上で症状を相談できるサービスや、動画でセルフケアを学べるプラットフォームも普及しました。これにより、「情報の非対称性」は大幅に縮小しています。
1-2. リモートで完結できる領域の拡大
オンライン診療、オンラインカウンセリング、オンラインパーソナルトレーニング…。遠隔でも一定のサービスを受けられるようになったことで、地域や時間の制約が大きく減りました。
1-3. 自動化・効率化の流れ
AIによる予約管理、チャットボットによる問い合わせ対応、電子カルテとの連携など、事務的な仕事は大幅に効率化されつつあります。
こうした変化によって、治療家の仕事は確かに一部「代替可能」になっているように見えます。
第2章:AIにできないことは何か?
では、AIがどれほど進化しても、決してできないことは何でしょうか?
2-1. 「触れる」という身体的コミュニケーション
人間にとって「触れる」という行為は、古代から癒しの手段として存在してきました。母親が子どもを撫でることで安心感を与えるように、手の温もりは神経系に直接働きかけ、心理的な落ち着きをもたらします。
AIがどれほど高度化しても、この「肌と肌が触れ合う体験」を完全に代替することは不可能です。
2-2. 微妙な感覚のキャッチ
私たち治療家は、患者さんの体に触れることで、筋肉の緊張、皮膚の温度、呼吸のリズム、関節の可動域など、言葉にならない情報を読み取ります。その「わずかな違和感」を感じ取る感覚は、数年~数十年の臨床経験を通じて磨かれていくものです。
これは数値化できない領域であり、AIが苦手とする部分です。
2-3. 感情や安心感のやり取り
「この先生に診てもらっているから大丈夫」と思える安心感。治療中の何気ない会話や、相手の表情から伝わる共感。この「人と人のやり取り」も、手技の一部なのです。AIには、感情の“リアルな交換”はできません。
第3章:デジタル疲れの時代と「リアル」の希少性
リモートワークやオンライン授業が広がったことで、私たちは便利さを手に入れた反面、デジタル疲れという新たな問題に直面しています。
- 一日中パソコンやスマホを見て肩が凝る
- オンライン会議で常に人に見られている緊張感
- メールやチャットの通知に追われるストレス
こうした生活の中で、人々は「リアルな体験」を強く求めるようになっています。
その象徴が旅行、食事、そして身体に触れるケアです。
「触れてもらう」「実際に会って話す」という当たり前のことが、デジタル社会においてはむしろ贅沢な体験として再評価されているのです。
第4章:手技の未来はどうなるのか?
ここまでを踏まえて、治療家としての私の考えを整理します。
4-1. 単純作業的な手技は淘汰される
誰がやっても同じようなマッサージ、マニュアル通りの施術…。こうした「均質化しやすいサービス」は、AIやロボットに取って代わられる可能性があります。
4-2. 個性と感性を持った手技は価値が上がる
一方で、施術者の感覚や経験が生きるアプローチ、相手に合わせて臨機応変に対応する技術は、AIでは代替できません。つまり、治療家一人ひとりの個性が価値になる時代です。
4-3. AIとのハイブリッドが進む
AIが不得意な部分=「触れること」や「感覚のやり取り」を人間が担い、得意な部分=「データの分析」「効率的な管理」をAIに任せる。これにより、治療家の仕事はむしろ洗練されていくでしょう。
第5章:治療家がこれから大切にすべきこと
未来において「手技」が価値を持ち続けるために、私たち治療家が意識すべきポイントは次の通りです。
- 技術の深化:
ただのマニュアル作業に終わらない、本質的な技術を磨く。 - 感覚と感性の研ぎ澄まし:
相手の微妙な変化に気づける「治療家ならではのセンサー」を育てる。 - コミュニケーション力:
治療の一部として、安心感や信頼関係を築く力を持つ。 - AIを恐れず活用する姿勢:
予約管理や姿勢分析などはAIに任せ、その分「人間にしかできないこと」に集中する。
結論:テクノロジー時代に輝く「手技」の真価
AIとオンライン化は、間違いなく社会を変えていきます。治療の世界も例外ではありません。
しかし、それは「手技が不要になる」ことを意味するのではなく、むしろ「手技の本質的価値が際立つ時代になる」ということです。
- データや知識はAIで十分。でも、体に触れてもらう安心感は人間にしか提供できない。
- 標準化された治療はAIに任せられる。でも、相手の感覚に合わせた施術は人間だからこそできる。
つまり、AI時代の治療家に求められるのは、「人間だからこそできること」を突き詰める姿勢です。
これからも、私たち治療家は “手の温もり”という最大の武器 を持って、人々の健康と安心を支えていくことになるでしょう。
まとめ
AIの時代に「手技」はどうなるのか?
答えはシンプルです。
→手技はなくならない。むしろ本物だけが残り、その価値は高まる。
デジタル社会に生きる私たちにとって、リアルに触れられること、体で感じられることは何よりの癒しであり、安心です。治療家にできることは、この価値をさらに深め、伝えていくこと。
そして未来の治療は、AIと人間が補い合うことで、より豊かに進化していくはずです。