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春はぎっくり腰の季節です。
桜がふわりと舞い、空気がゆるみ、コートが軽くなり、心まで軽くなった気がするあの瞬間。
人はつい、こう思うのです。
「よし、動こう」
冬のあいだ、こたつの守護神と化していた私たちの身体は、春の光に照らされて急に“活動モード”へ切り替わります。まるで冬眠から目覚めたクマのように。けれどここでひとつ問題があるのです。
クマは準備運動をしません。
そして私たちも、だいたいしません。
結果どうなるか。
グキッ。
はい、春の風物詩、ぎっくり腰の登場です。
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人間も動物であるという事実
春になると草木が芽吹き、鳥はさえずり、猫はなんだか落ち着きがなくなり、犬はいつも以上に元気です。自然界はざわざわと動き出します。
それはなぜか。
繁殖の季節だからです。
命は春に拡がろうとします。
エネルギーは外へ向かいます。
生命は「増えたい」「広がりたい」とささやきます。
そして私たち人間も、れっきとした動物。
理性とスーツを身につけていても、奥底では野生のスイッチがカチリと入ります。なんだかワクワクする。新しいことを始めたくなる。模様替えしたくなる。急にランニングを始めたくなる。庭の草むしりを一気にやりたくなる。
そしてやりすぎる。
冬のあいだ、じっと縮こまっていた筋肉や関節は、まだエンジンが温まっていません。そこへいきなり「さあ行くぞ春だ!」とアクセル全開。
身体は静かに言います。
「ちょっと待って」
でも心は聞きません。
そして腰が抗議します。
グキッ。
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春のぎっくり腰は、情熱の副産物
ぎっくり腰というと、重たい物を持ったときに起こるイメージがあります。確かにそれもあります。でも実際は、ちょっとした動きで起こることが多いのです。
洗面台で顔を洗おうと前かがみになった瞬間。
靴下を履こうと片足を上げた瞬間。
くしゃみをした瞬間。
「え、今?」というタイミングで腰はロックします。
それは身体が壊れたというより、ブレーキがかかった状態。
冬から春へ、内側のギアチェンジがうまくいかなかった結果とも言えます。
春は自律神経も揺れやすい季節です。寒暖差、環境の変化、花粉、気圧の変動。身体は目に見えないところで大忙し。そこへ「よし模様替えだ!」とタンスを引きずれば、腰も「ちょっと相談してからにして」と言いたくなるわけです。
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秋生まれが多いのは春のせい?
さて、ここで少しユーモアの種をまきましょう。
春は繁殖の季節。
人間も動物。
ということは。
春にロマンが芽吹き、夏を越えて、秋に誕生。
だから秋生まれの人が多い?
実際、統計を見ると秋生まれが多い年もあります。もちろん社会的な要因もたくさんあります。でも、春の空気がほんの少し背中を押している可能性は、ゼロではないかもしれません。
桜の下で交わされる未来の約束。
新年度の高揚感。
暖かい夜風。
人間は理性的なようで、ちゃんと季節に揺さぶられています。
ホルモンも、感情も、行動も。
つまり春は、生命力があふれる季節。
そしてその生命力は、腰にもかかります。
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「なんだか動きたくなる」は要注意サイン
春になると患者さんがよく言います。
「特に重い物は持っていないんです」
「急にやる気が出ちゃって」
「久しぶりに運動しようと思って」
それです。
やる気は素晴らしい。
行動も素晴らしい。
でも身体の準備はどうでしょう。
冬の間、血流はやや滞りやすく、筋肉は硬くなりがち。背骨の動きも浅くなりやすい。そこへ急に可動域フルスロットル。
身体は「春だ!」と喜びながらも、どこかで悲鳴を上げています。
ぎっくり腰は、単なる事故ではなく、季節の変わり目のメッセージ。
「エンジンを温めてから走ろう」
という身体からの提案です。
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春を感じたら、まず背骨を感じる
桜を見たら写真を撮る。
春服を出す。
新しい手帳を買う。
それも素敵。
でももうひとつ、春の恒例行事に加えてほしいことがあります。
背骨のメンテナンス。
背骨は神経の大通り。
ここがスムーズに動くと、身体全体が軽やかに動きます。逆に、ここが固まっていると、どこかに無理が集まります。多くの場合、それが腰にやってきます。
春はスタートの季節。
身体もリセットの季節。
ぎっくり腰になってから来るのももちろんOKです。でも本当は、その一歩手前で整えておくと、春のエネルギーを味方にできます。
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ぎっくり腰は「ダメ」のサインではない
ここで大切なことをひとつ。
ぎっくり腰になったからといって、あなたが弱いわけではありません。むしろ、生命力が高まっている証拠とも言えます。
動こうとした。
変わろうとした。
何かを始めようとした。
その結果、身体が追いつかなかっただけ。
だから落ち込む必要はありません。ただ、身体の声を少し丁寧に聞いてあげるだけでいいのです。
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春を感じたら、整体へ
春の風が少し暖かいと感じたら。
コートを脱ぎたくなったら。
なんだか外に出たくなったら。
それは身体の内側でも、何かが芽吹いているサイン。
そのタイミングで整体に来るという選択は、かなり賢い春の過ごし方です。痛くなってから駆け込むのではなく、動き出す前に整えておく。
春の身体は、調律された楽器のようなもの。少し整えるだけで、驚くほど軽やかな音色を奏でます。
今年の春は、ぎっくり腰のニュースを減らしたい。
桜とともに、背骨もふわりと軽く。
人間も動物。
春は繁殖の季節。
生命は外へ広がろうとします。
だからこそ、土台を整える。
春を感じたら、空を見上げるついでに、自分の背骨も思い出してください。
そしてこうつぶやいてみましょう。
「よし、整えてから動こう」
その一歩が、春を思いきり楽しむための秘密兵器になります。
今年の春は、グキッではなく、スッと。
軽やかな一歩で始めてみませんか。



