臨床経験20年以上の治療家が発信する治療家セラピストマガジン
コンセプトが曖昧なまま開業してしまった話
ある治療家の遠回りと、そこから得た本当の武器
開業当初の自分に、もし一言だけ声をかけられるとしたら、こう言います。
「技術は十分。でも、誰のための院か分からない」
これは、かつての僕自身の話です。
そして実は、多くの治療家が同じ落とし穴にはまっています。
整体やカイロプラクティックの世界に入ったきっかけは、「身体が変わる瞬間」に魅了されたことでした。
勉強会に通い、技術を磨き、症例を重ねる。
周囲からも「上手いね」と言われるようになり、自然と開業を意識しました。
そのとき本気で思っていました。
「これだけ技術があれば、患者さんは来るだろう」と。
いざ開業し、看板やホームページ、チラシを用意しました。
そこに書いていたのは、
「肩こり・腰痛・頭痛」「老若男女どなたでも」といった、今思えばとても曖昧な言葉でした。
一見、親切そうですが、患者さんから見ると
「結局どんな人に強い院なの?」
「他と何が違うの?」
その答えが見えなかったのだと思います。
来院はありました。
でも、なぜか続かない。
施術の反応は悪くないのに、定着しない。
原因が分からず、悩んでいました。
そんな時、師匠に聞かれました。
「Ezyri君の治療院は、誰のための院なの?」
答えられませんでした。
その瞬間、気づいたのです。
自分は“誰かのための院”ではなく、“みんな向けっぽい院”を作ってしまったのだと。
コンセプトとは、特別な言葉ではありません。
「誰の、どんな悩みを、どう解決する院なのか」
そして同時に、「やらないこと」を決めることです。
怖さはありましたが、コンセプトを明確にすると説明が楽になり、無理に売り込まなくても必要な人が通ってくれるようになりました。
正直に言うと、その頃の治療院は一度潰してしまいました。
でもその経験があったからこそ、患者さん目線、経営者目線、そして治療家としての軸を本気で考えるようになりました。
あの遠回りは、無駄ではなかった。
ただ、できれば最初から知っておきたかった。
この記事が、誰かの遠回りを少しでも短くできたなら、これ以上うれしいことはありません。

